企業にとって、出張者や駐在員の安全を守ることは必須です。そして、安全を守る有効な手段の代表例が海外旅行保険です。しかし、出張者に対する海外旅行保険の付保については、手続きが大変、出張者への保険の付保漏れなど、様々な課題があります。それらの課題を解決するのが企業向けの海外旅行保険である海外旅行保険企業包括契約です。
今回は、海外旅行保険企業包括契約について、メリット・デメリットや手続きの方法などを解説します。
海外旅行保険企業包括契約とは、法人向けの海外旅行保険の契約です。通常の海外旅行保険の場合、渡航者が渡航前にプランを選択し、海外旅行保険の申込を行い、保険料を支払った上で保険に加入します。しかし、海外旅行保険企業包括契約の場合は、事前に企業と保険会社が補償内容を定めたうえで保険契約を締結し、その補償内容で業務のために海外に渡航する役職員全員に保険を付保します。出張の都度、海外旅行保険の加入手続きをせずに対象となる出張者に対して海外旅行保険が補償します。契約は原則1年間で、毎年更新する契約方式となります。
通常の海外旅行保険 | 海外旅行保険企業包括契約 | |
---|---|---|
事前の契約締結 | 不要 | 必要 |
保険の申込 | 都度必要 | 不要 |
精算 | 加入の都度必要 | 月に1度まとめて精算 |
契約の更新 | 不要 | 必要 |
例:三井住友海上の法人向けページ
https://www.ms-ins.com/business/
海外旅行保険企業包括契約でカバーできる補償内容は、通常の海外旅行保険と変わりません。怪我や病気の補償、旅程トラブルに伴う補償、その他の補償など、通常の海外旅行保険で加入できる補償内容をカバーすることが可能です。それらの補償について、企業の方針に基づき、カバーする内容やその補償金額を設定することが可能です。具体的な保証項目が知りたい方は下記をご覧ください。
海外旅行保険においてカバーする項目及び補償金額を検討します。検討にあたっては、保険会社のサイトの基本的なプランを参考にしつつ、出張者にヒアリングして設定する方法が一般的です。役員と非役員で補償内容を分けることも可能です。
なお、企業によっては災害補償規定等で海外旅行保険の補償内容をあらかじめ決めているケースもありますので、その場合は災害補償規定等の内容に沿って設定しましょう。
保険内容の大枠が固まったら、保険会社に見積もりを依頼して比較しましょう。なお、保険会社によっては、現地での費用を支払うことなく病院で診療してもらえるキャッシュレスメディカルが利用できるなど、サービス内容も個社別に異なるため、その点も考慮しましょう。
また、付き合いのある保険代理店や旅行会社がある場合は、補償内容の選定や保険会社の選定においてフォローしてもらうとよいでしょう。
企業と保険会社との間で海外旅行保険の企業包括契約を結びます。契約は原則、一年単位になります。なお、契約にあたっては、暫定保険料が必要になります。1年間の契約終了後に満額返金されますが、暫定保険料の金額は予想年間保険料の1/12相当です。
出張者が発生する度に、保険の加入証を発行します。発行にあたっては、保険者の氏名や性別、渡航期間、渡航方面、加入プランなどが必要になります。申込書の作成は不要であり、先に述べた情報があれば、簡単に発行することが可能です。また、保険会社によってはウェブ上で企業専用のURLにログインし、加入証を発行することが可能です。
企業包括契約は事後精算となり、月次で付保情報をまとめ、翌月にまとめて精算します。例えば、8月の渡航者が合計で20万円の保険料だった場合は、8月の付保情報を取りまとめて書面を作成し、翌月の9月にまとめて10万円を保険会社に支払う仕組みです。なお、精算は月次単位での実施が一般的ですが、年次で精算を行う場合もあります。
企業包括契約は1年単位の契約となるため、契約した1年後に更新手続きが必要となります。手続きにあたっては、補償内容の見直しや暫定保険料の支払いを行います。なお、暫定保険料は、契約終了時に返金されるか、最終月の保険料から差し引かれる形で処理します。
個人で保険に加入する場合は、海外旅行保険への申し込みが必須ですが、海外旅行保険包括契約の場合は、加入証を発行するだけで保険に加入することができます。こうした加入に係る事務手続きは相当の事務工数を要するため、海外旅行保険包括契約による事務負担の軽減効果は大きいと言えるでしょう。
企業にとって一番警戒しなければいけないのが、出張者の海外旅行保険の加入漏れです。万が一、渡航先で体調を崩した場合などは多額の費用が発生する可能性があります。そのため、出張者への保険の付保は必須といえますが、出張者が主体的に保険へ加入する場合は、加入を忘れるリスクが高まります。対して、海外旅行保険包括契約の場合は、総務部門や保険代理店による加入が一般的なため、加入漏れのリスクを解消することができます。
個人で保険に加入する場合は、保険加入時に保険料を支払いを行います。その後、出張者による出張費精算を経て、立替費用の精算が行われます。一方、海外旅行保険包括契約の場合は、企業と保険会社が一か月単位で報告及び支払いを実施するため、精算業務の手間が軽減されます。
海外旅行保険包括契約では、年間実績(年間の延べ出張者数や保険料)に応じて包括割引が適用される場合があります。包括割引が適用された場合は、個人で保険に加入するよりも保険料を抑えることが可能になります。包括割引については、付き合いのある保険代理店に相談するとよいでしょう。
海外旅行保険包括契約は、会社が支払う保険料は業務上必要な経費として認められます。また、従業員の福利厚生とみなせるため、全額損金算入が可能です。
海外旅行保険包括契約の場合は、企業が保険料を支払っていますので、海外出張する従業員の承諾のもとに、保険金の受け取りを会社にすることが可能です。一方、個人で海外旅行保険に加入した場合は、受取人は本人の法定相続人となります。
海外旅行保険包括契約の締結に当たっては、暫定保険料が必要になります。暫定保険料は、契約終了時に返金されますが、一時的に支払いが発生する必要があるため、加入に際しては事前に社内で確認しましょう。また、一時的な支払いの会計上の取り扱いについても経理部門に確認した方が良いでしょう。
海外旅行保険包括契約には最低保険料の設定があります。最低保険料とは、年間の実績保険料の必要最低金額を意味し、必要金額に達しなかった場合は差額を支払う必要があります。例えば、最低保険料が10万円で1年間の実績保険料が7万円だった場合、3万円を追加で保険会社に支払う必要があります。最低保険料の金額は保険会社毎で決められていますので、包括契約を検討する際は最低保険料をしっかり確認しておきましょう。
海外旅行保険包括契約にあたっては、事前に保険の補償内容を設定する必要があります。そのため、個人の要望に応じて補償内容を変更することはできません。先述の通り、役職による補償内容の設定は可能ですが、都度の変更はできないので注意しましょう。
この記事では、海外旅行保険企業包括契約の概要や加入手続き、加入することについてのメリット、注意点について解説しました。不慣れな海外出張中には不測の事態が発生しがちです。そのため、海外旅行保険への法人での加入をおすすめします。
なお、BORDERでは、出張者の渡航情報に合わせて海外旅行保険を自動的に付保する設定が可能です。海外出張者の保険付保漏れが気になる方は、是非、パンフレットをダウンロードください。