2023年10月1日よりスタートしたインボイス制度において出張と関係があるのが仕入税額控除です。これまでは、3万円未満の取引は領収書がなくても特例扱いとなり、消費税の仕入税額控除が認められていましたが、インボイス制度開始後はこの特例がなくなります。ただし、インボイス制度においても例外となるケースがあり、出張費はその例外に該当しえます。
そこで、本記事では、出張旅費特例と仕入税額控除の関係について解説します。具体的には、帳簿のみ保存による仕入税額控除が可能となる取引の内容や、帳簿のみ保存では控除対象とならない出張費用の対応方法について解説します。
仕入税額控除とは、課税事業者が納税すべき消費税を計算する際、売上にかかる消費税から仕入れにかかる消費税を差し引いて計算することにより、消費税の二重課税を解消することができる制度です。
インボイス制度が導入される2023年9月30日までは、3万円未満の取引は領収書がなくても特例扱いとして、消費税の仕入税額控除が認められていました。例えば、オフィスで消費する文具類、消耗品などの購入費などは、3万円未満であればこの特例に該当します。
しかし、2023年10月1日より開始したインボイス制度ではこの特例がなくなり、3万円未満でも領収書の受領及び保存が必要となります。数百円のコピー用紙を購入したとしても、領収書の受領が必須になります。
前述の通り、インボイス制度では、領収書の受領及び保存が必要になりますが、以下の9つの取引においては、帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められます。
帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる取引
(1)3万円未満の公共交通機関による旅客の運送
(2)適格簡易請求書の記載事項(取引年月日を除く)が記載されている入場券などが使用の際に回収される取引(ただし、1に該当する取引を除く)
(3)古物営業を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの古物(古物営業を営む者の棚卸資産に該当するものに限る)の購入
(4)質屋を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの質物(質屋を営む者の棚卸資産に該当するものに限る)の取得
(5)宅地建物取引業を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの建物(宅地建物取引業を営む者の棚卸資産に該当するものに限る)の購入
(6)適格請求書発行事業者でない者からの再生資源および再生部品(購入者の棚卸資産に該当するものに限る)の購入
(7)適格請求書の交付義務が免除される3万円未満の自動販売機および自動サービス機からの商品の購入
(8)適格請求書の交付義務が免除される郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス(郵便ポストに差し出されたものに限る)
(9)従業員などに支給する通常必要と認められる出張旅費など(出張旅費、宿泊費、日当および通勤手当)
出典:国税庁(帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる場合)
出典:国税庁(出張旅費、宿泊費、日当等に係る仕入税額控除の適用要件)
これらの取引は、一定の事項を記載した帳簿を保存するだけで、仕入税額控除の適用を受けることが可能です。そして、上記のうち出張に大きく関わるのは、(1)3万円未満の公共交通機関による旅客の運送及び(9)従業員などに支給する通常必要と認められる出張旅費など(出張旅費、宿泊費、日当および通勤手当)です。以下では、この2つの取引について解説します。
3万円未満の公共交通機関による旅客の運送については、インボイスの交付義務が免除されているため、帳簿に通常の記載事項に加え、「公共交通機関特例」などと記載すれば帳簿のみの保存での仕入税額控除が認められます。
出張旅費規程に従って出張旅費などを従業員に支給する場合は、会社と従業員の間で取引があったと捉え、会社は従業員から課税仕入を行ったとみなされます。そのため、会社から従業員への支給額が仕入税額控除の対象になります。
この場合、帳簿に通常の記載事項に加え、「出張旅費等特例」などと記載すれば帳簿のみの保存での仕入税額控除が認められます。
なお、仕入税額控除を受けることができる金額は「その旅行に通常必要であると認められる部分」に限られています。所得税の非課税の範囲は、所得税基本通達9-3に記載されている非課税旅費の範囲の例に基づき判定されます。出張手当などの金額は常識的な範囲内に設定するようにお気を付けください。
非課税とされる金品は、旅行をした者に対して使用者等からその旅行に必要な運賃、宿泊料、移転料等の支出に充てるものとして支給される金品のうち、その旅行の目的、目的地、旅行者の職務内容・地位などからみて、その旅行に通常必要とされる費用の支出に充てられると認められる範囲内の金品をいうが、当該範囲内の金品に該当するかどうかの判定に当たっては、次に掲げる事項を勘案するものとする。
(1) その支給額が、その支給をする使用者等の役員及び使用人の全てを通じて適正なバランスが保たれている基準によって計算されたものであるかどうか。
(2) その支給額が、その支給をする使用者等と同業種、同規模の他の使用者等が一般的に支給している金額に照らして相当と認められるものであるかどうか
所得税基本通達9-3
出典:国税庁(出張旅費、宿泊費、日当等)
旅費規程について詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
公共交通機関特例と出張旅費特例の相違点は以下の通りです。
公共交通機関特例 | 出張旅費特例 | |
---|---|---|
対象費目 | 対象が電車などの公共交通機関の利用に限定されており、タクシーや飛行機については公共交通機関に含まれないため特例の適用対象外です。 | 特に費目は限定されていません。タクシーや飛行機代など公共交通機関に含まれないものについても、インボイスの取得がなくとも特例の適用対象となります。 |
金額 | 支払いが3万円未満の場合に限り特例の適用対象となります。 | 金額の制限は設けられていません。そのため支払額が3万円以上であっても、特例の適用対象となります。 |
支払者 | 支払者が企業であるか従業員などであるかについては問われていません。 | 「企業の業務上必要な支出を従業員などが支払い、その支出に対して従業員などに支給する場合」に適用されるため、会社が直接、鉄道会社などに支払いを行った際には適用できません。 |
出張旅費規程によらない旅費交通費を従業員が立て替えている場合、仕入税額控除の対象とするためには、原則、会社宛の適格請求書が必要となります。
なお、領収書の宛名が会社ではなく、従業員となっている場合は、適格請求書の記載事項を満たさず仕入税額控除ができないこととなるため、仕入税額控除を行うためには、従業員が作成した「立替金精算書」が必要となります。
これまでの内容を踏まえ、出張費における旅費交通費の取り扱いについて、パターン化して整理します。
帳簿のみ保存による仕入税額控除が可能となる取引となるため、帳簿に通常の記載事項に加え、「公共交通機関特例」などと記載すれば帳簿のみの保存での仕入税額控除が認められます。
帳簿のみ保存による仕入税額控除が可能となる取引となるため、帳簿に通常の記載事項に加え、「出張旅費等特例」などと記載すれば帳簿のみの保存での仕入税額控除が認められます。
宛名が会社となっている適格請求書が必要です。なお、会社宛の請求書が用意できない場合は、適格請求書に加え、出張者による立替金精算書が必要になります。
帳簿への記載・保存のみで仕入税額控除の適用を受けられる特例について、帳簿に記載が必要な事項は以下の通りです。
1. 相手方の氏名または名称 2. 取引年月日 3. 取引内容(軽減税率対象の場合、その旨) 4. 税率の異なるごとに区分した支払対価の額 5. 摘要欄に特例の適用がある旨の記載 (「出張旅費等特例」と記載) |
いかがでしたでしょうか。大まかにいえば、出張旅費規定内であれば、会社宛の請求書は不要になるので、インボイス制度の影響度は限定的です。
しかし、手続きが煩雑になっているのは事実なので、旅行代理店などと契約し、会社への一括請求とするのが最も運用負荷が少ないと考えられます。
御社における出張に伴う経理作業の参考になれば幸いです。
【インボイス×旅行代理店】出張手配におけるインボイス制度対応を解説