海外出張の管理者にとって費用以上に気になるのが、出張者の安全確保です。海外出張では、距離や時差により出張者のフォローが難しいため、しっかりとしたリスク管理をしていないと重大な事態を招く恐れがあります。
この記事では、海外出張で想定されるリスクを整理したうえで、リスクを回避・防止するための対策方法について解説します。
はじめに、外務省の「2022年(令和4年)海外邦人援護統計」によると、海外で援護された日本人は年間15,000名にも及びます。また、コロナ前では20,000名を超える邦人が援護されていました。
続いて、援護の内容を見ると、全体16,895件のうち、7.1%にあたる1,205名は犯罪被害に伴う援護です。
これらのデータを見ると、海外におけるトラブルは決して他人事ではなく、安全を守るための取り組みが必要であることが分かります。
日本人が海外で出くわす主な犯罪被害は、以下が挙げられます。
最も多い犯罪被害が、スリや置き引きなどの窃盗被害です。発生場所としては、電車やバスなどの移動中や繁華街、飲食店などです。また、空港などでも窃盗被害にあうことがあります。貴重品は肌身から離さない、ホテルで保管し持ち出さないなどの対策が必要です。
街中を歩いている際に、バッグなどの手荷物を奪われるケースです。発生場所としては、人通りの少ないエリアが中心ですが、中心市街地でも被害にあう場合もあるので注意しましょう。
海外では、飲食店などで不当に高額な料金を請求される場合が多くあります。また、カジノなどのギャンブルでは詐欺が横行しているので注意しましょう。
海外で発生事案が多いのが、スキミングです。クレジットカード情報を読み取り、不正利用されるケースです。どのお店が不正をしているのか判断するのは難しいので、スキミング対策がされている、または、不正利用に対する補償が付いたクレジットカードを使用しましょう。
ケースとしてはほとんどありませんが、誘拐も出張時のリスクとして考慮しておいた方が良いでしょう。出張者の身柄を拘束し、企業側に身代金を要求するケースもあります。治安が悪い場所への出張では、極力出歩かず、移動もホテルからのタクシーなどに限定し、自らの身を守る様に心がけましょう。
上記の犯罪被害の他にも、脅迫やテロなどのトラブルに見舞われる可能性はあります。可能な限り安全対策を行いましょう。
出張する社員本人だけでなく、企業側も渡航先の基本情報を集めて現地の状況を把握しましょう。渡航先の情報を把握する上では下記のサイトが役に立ちます。
出張者の安全を守る!出張時に役立つ安全・リスク管理関連の情報サイトを紹介
たびレジとは、外務省が提供する海外安全情報の配信サービスです。メールアドレスや、配信期限・渡航地域を登録すると、現地の大使館や領事館から、事件や事故の情報、事前の注意喚起が配信されます。出張者には必ず登録するように通達しましょう。
海外出張者向けに、海外出張マニュアルを作成しましょう。海外出張マニュアルには、出張の対応方針(例:外務省の危険情報レベルが3以上の国には渡航しない等)や有事の対応方針(例:外務省の危険情報レベルが3になったら即時帰国する等)を記載しましょう。
出張でトラブルが発生した場合に、出張者からの連絡を受けられる体制を構築しましょう。なお、体制構築にあたっては時差を考慮することが重要になります。
警備会社や渡航時の緊急サポート会社などが提供している現地救援サービスを利用し、緊急時に出張者を支援できる体制を構築しましょう。
出張者が緊急時に連絡ができるよう、海外から電話できる携帯電話の提供やWiFi等の提供をしましょう。
出張者の渡航スケジュールはもちろんのこと、宿泊先のホテル名などがわかるように、出張情報を一元的に管理しましょう。
海外でトラブルが発生した場合、急に病院に行く必要が発生したり、高額の出費が必要になる場合があります。そうした場合に出張者が困らないよう、海外旅行保険に加入しておきましょう。
海外出張中にトラブルに巻き込まれた場合は以下の通り対応しましょう。
被害にあった場合、すぐに現地の警察を訪れ、被害届を提出しましょう。
被害届を提出した後は、現地の日本大使館に連絡しましょう。なお、日本大使館・領事館の対応範囲については、下記のURLを参照ください。
警察への届出、大使館への連絡が終わったら、会社へ報告をしましょう。企業側は、被害に遭った出張者が困らないよう、事前に連絡先や対応マニュアルを作成・共有しましょう。
なお、窃盗などに遭った場合は、抵抗しないことが重要です。海外では抵抗した結果、反撃を受ける場合もたたあるので、自分で解決しようとせず、警察や大使館等に助けを求めましょう。
海外出張時には想定しえないトラブルに遭遇することがあります。出張者自身が危機管理意識を持って行動することも重要ですが、同時に、企業として出張者の安全を守る対策が求められます。
企業として、海外出張マニュアルはもちろんのこと、出張情報の一元管理や緊急時の対応方法を構築しておきましょう。