皆さんは、APEC・ビジネス・トラベル・カード(ABTC)をご存じでしょうか。ビジネスのグローバル化が進む今、海外出張は今後も増加する可能性があります。そして、出張時の負担となるのが出入国のための準備です。日本のパスポート所持者はビザなどの用意は余り必要ありませんが、特定の諸国においてはビザ申請が求められます。また、入国審査にはかなりの時間を要します。
外国における入国審査はできるだけ簡易化したい。APEC・ビジネス・トラベル・カード(ABTC)は、その入国審査の時間を大幅に短縮できるトラベルカードとして多くのビジネスマンが活用しています。
本日は、APEC・ビジネス・トラベル・カード(ABTC)の特徴と申請方法について解説します。
APEC・ビジネス・トラベル・カード(ABTC)とは、APEC域内を頻繁に訪れる出張者の移動を円滑にするため、外務省が発行する特別なカードです。APECカードを保有している場合、ビザなしで入国審査を受けることができます。また、入国審査時、ABTC専用レーンを利用するなどのメリットもあります。
※事前に各国・地域当局の承認を得る必要があります。
APEC・ビジネス・トラベル・カード(ABTC)は、APEC域内の出張が多いビジネスパーソンにとって、以下のようなメリットがあります。
入国にあたって査証(ビザ)が必要とされる国であっても、査証(ビザ)が免除されるため、出張前の煩雑な査証(ビザ)の手続きを行う必要がありません。例えば、ベトナムでは30日以内に再入国する場合は、査証(ビザ)が必要になりますが、APECカードを保有している場合は、査証(ビザ)が免除になります。
APECカードを保有している場合、イミグレーションの際にABTC専用レーン(入国審査ブース)を利用することができます。アジア諸国では入国審査の窓口が混雑しているケースがあるため、円滑な審査が受けられる点はメリットといえます。
APEC・ビジネス・トラベル・カード(ABTC)保有者は、商用で短期訪問することを事前に承認をもらうため、カードを見せると、入国審査官も商用目的での訪問であることを直ぐに理解してくれます。そのため、執拗に質問されるなど、入国にあたってのトラブルを回避することが可能です。
APEC(アジア太平洋経済協力)には、現在21の国・地域が参加していますが、APEC・ビジネス・トラベル・カード(ABTC)制度に参加しているのは、そのうち19カ国・地域です。なお、アメリカ及びカナダは暫定参加中であり、前者はESTA、後者はeTAが必要、かつ、事前審査の承認は受けられません。
日本、中国、中国香港、台湾、韓国
シンガポール、タイ、インドネシア、マレーシア、ベトナム、フィリピン、ブルネイ
オーストラリア(ETAS不要)、ニュージーランド、パプアニューギニア
メキシコ、ペルー、チリ
ロシア(VISA不要)
米国とカナダはABTC制度に暫定参加しており、ABTC専用レーンの利用は認めているものの、ABTCによる入国を認めておらず、査証が必ず必要となりますので、ご注意ください。
APEC・ビジネス・トラベル・カード(ABTC)の取得にあたっては、申請料(13,100円)が必要です。その他には、申請用の写真や返信用の定型封筒及び郵便切手などが発生します。
また、申請を外部に依頼する場合は、代行手数料等が発生します。
申請書類を一式提出すると、各国で承認が始まります。全ての国・地域の承認がされると、APECカードが届きます。一般的に申請からカードの到着まで約6ヵ月と言われています。
なお、審査番号が発給された後は、外務省のサイトにて申請状況を確認することができるようになります。
参考:ABTC Systemのページ
https://www.abtc-aps.org/abtc-core/status/check.html
APECカードを申請するためには下記の4つの要件を満たしている必要があります。4番目の条件については、さらに条件分岐がありますが、多くのビジネス関係者は、この4-(イ)が対象になると思います。
(1)有効な日本国旅券を所持していること。
(2)申請書その他の提出書類に虚偽の記載がないこと。
(3)犯罪歴がないこと。
(4)外務大臣が告示で定める次のいずれかの要件に該当していること(ただし、職業運動選手、報道特派員、芸能人、音楽家、芸術家又は同様の職業に当たる方には、交付することができませんのでご注意ください)。
(4)-(イ)金額の多寡を問わず、貿易・投資実績(注1)がある企業等の経営者又は当該企業等に雇用されている方で、貿易等に関する事業(注2)を行うことを目的として参加国・地域への渡航が必要であると認められる方
申請要件を満たしていることを確認したら、いよいよAPECカードの申請手続きを行います。申請は6つのステップに分かれています。
STEP1 | 申請書類を取得する |
STEP2 | 申請書類一式を準備する |
STEP3 | 外務省に申請書類一式を送付する ※郵送申請のみ |
STEP4 | 申請受理後、審査番号が発行される |
STEP5 | 各国・地域により承認が行われる |
STEP6 | APEC・ビジネス・トラベル・カード(ABTC)が指定郵送先に返却される |
このうち申請者が行うのは、STEP1〜STEP3となります。つまり、申請書類一式を外務省に送付したら、その後はAPECカードの交付を待つのみです。なお、前述の通り、カードの交付には6ヵ月程度かかるんのでご注意ください。
APECカードの申請を行うには、下記の申請様式が必要となります。なお、申請書類は、申請者の要件等によって変わることがあるので必ず外務省のサイトを確認ください。
参考:申請書類(外務省)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/apec/vabtc_faq.html#section5
1 | APEC商用渡航カード交付申請書 | 外務省サイトより入手可能※記入例もあります |
2 | 交付手数料分の収入印紙 | 外務省サイトより手数料納付書を入手し、収入印紙(13,100円)を貼り付けます。 |
3 | 申請者の顔写真 | 縦45ミリメートル×横35ミリメートルの写真を2枚用意します |
4 | 旅券(パスポート)写し | 顔写真及び身分事項が記載されたページの写し |
5 | 在職証明書 | 雇用関係を証する書類 |
6 | 所属企業等の登記事項証明書 | 四季報などに掲載されている企業等は提出免除となるので、確認ください |
7 | 所属企業等の貿易・投資の実績を示す文書 | 決算書、損益計算書の関係部分の写し等 |
8 | 所属企業等の業務内容に関する資料 | 事業報告書、会社の業務概況報告、会社案内(パンフレット)など。関連資料がホームページに掲載されている場合には、パンフレットなどは免除になりますので、申請書のホームページアドレス記入欄にアドレスを正確に記入してください。 |
9 | 返信用定型封筒+郵便切手 | 郵便切手444円 |
申請書類リストの1つ目にあるAPEC商用渡航カード交付申請書は、記入例があるので、こちらを参考にしましょう。
APEC・ビジネス・トラベル・カード(ABTC)の申請書類が一式揃ったら、下記に送付しましょう。
〒100-8919 東京都千代田区霞が関2-2-1 外務省経済局アジア太平洋経済協力(APEC)室 「APEC・ビジネス・トラベル・カード」ABTC班 |
2023年に導入を開始したAPECビジネスカードですが、利便性の向上を目的として、2024年4月1日よりAPEC・ビジネス・トラベル・カードのデジタル化を開始しました。具体的な変更点は以下の通りです。
現制度 | 新制度 | |
---|---|---|
申請方法 | 紙の書類を外務省に郵送 | 専用サイトへの入力とファイル添付で申請 (手数料は収入印紙を郵送) |
交付までの期間 | 平均6か月 | より早期の交付が可能 |
交付タイミング | 中途発行又は全参加国・地域の 審査完了後 | 国内承認完了後(即時交付) |
交付方法 | 郵送によるプラスチックABTCの送付 | 交付案内通知の送信 (アプリをインストールしてカードを表示) |
承認国・地域の承認 | ABTCシステムのサイトで確認 | アプリ上で確認 (アプリに表示され次第、渡航が可能) |
紛失時の対処 | 再交付手続きが必要 | 新しい端末にアプリをインストール後、 即時の利用再開が可能 |
カード形態の選択 | プラスチックABTCからバーチャルABTCへ 変更することが可能 | |
旅券更新時の手続き | 既存のABTCは失効するので 新規交付手続きが必要 | 条件に応じて旅券番号の変更による再交付の オンライン申請が可能 |
デジタル化された新しいAPEC・ビジネス・トラベル・カードの概要は下記にて確認が可能です。
ABTCを利用し、短期商用目的にて入国した際に認められる最大滞在可能日数は、60日から90日です。詳しくは、APEC事務局HP内の「ABTC Economy Entry Information(英語)(PDF)」をご確認ください。また、国・地域によって、その日数や入国・入域条件は異なりますので、ご不明点やご質問については、各国・地域のABTCチームの連絡先(英語)(PDF)で開くへご確認ください。
日本国内には、成田空港、羽田空港、中部国際空港、関西国際空港、新千歳空港、福岡空港及び那覇空港に、ABTC専用レーンが設置されています。
各参加国・地域におけるABTC専用レーンの有無については、渡航予定先国に直接お問い合わせください。
いかがでしたか。アジアへの出張頻度が多い方にとって、APECビジネスカードは非常に有用なツールだと思います。今後、複数回の渡航を予定している方はAPECビジネスカードの取得を是非ご検討ください。
ビザの申請の基本が知りたい方はこちらをご覧ください。