パラグアイ出張の概要
パラグアイは南米大陸の中央に位置する「南米の心臓(Corazón de América)」と称される国です。
近年、ブラジルやアルゼンチンといった近隣の大国と比較して、安定した経済成長率と親日的な国民性、そして低税率などの投資メリットから、日本の製造業や農業関連企業の進出・視察先として注目が高まっています。
パラグアイへのビジネス渡航においてまず理解しておくべきは、日本からの直行便が存在しないという点です。
米国(マイアミなど)や欧州(マドリード)、あるいはブラジルやアルゼンチンの主要都市を経由する長距離移動が前提となるため、余裕を持ったスケジュール管理がプロジェクト成功の鍵となります。
ビジネス渡航で想定される主な都市・空港
パラグアイ出張において、拠点の中心となるのは以下の2都市です。
| 都市名 | 特徴・役割 | 主要空港 |
| アスンシオン(Asunción) | 政治・経済の中心地、政府機関・主要企業が集中 | シルビオ・ペッティロッシ国際空港(ASU) |
| シウダー・デル・エステ(Ciudad del Este) | 商業・物流の要所、ブラジル・アルゼンチン国境の免税都市 | グアラニ国際空港(AGT) |
- シルビオ・ペッティロッシ国際空港 (ASU): パラグアイ最大の玄関口です。アスンシオン市街地からは車で約30〜40分(混雑時を除く)の距離に位置しています。機材やサービスレベルは標準的ですが、入国審査や荷物の受け取りに時間を要する場合があるため、到着後のアポイントメントには十分なバッファを持たせることを推奨します。
- グアラニ国際空港 (AGT): シウダー・デル・エステ近郊の空港ですが、便数が限られているため、ブラジル側のフォス・ド・イグアス空港(IGU)を利用して陸路で入国するルートも一般的です。ただし、陸路入国時は入国スタンプの押し忘れ(オーバーステイ扱いの原因)に細心の注意が必要です。
日本人出張者のビザ要件
日本国籍の出張者がビジネス目的でパラグアイに渡航する場合、「短期滞在(90日以内)」であれば、事前のビザ取得は不要です。
2025年6月1日より、日本とパラグアイの間でIC一般旅券(パスポート)所持者を対象とした相互査証免除措置が実施されています。これにより、商談、契約、市場調査、会議出席などの報酬を伴わない短期ビジネス活動は、査証なしで行うことができます。
ビザ要否一覧(日本国籍)
ビザ免除の条件と必要書類
ビザなしで入国する際には、以下の条件を満たしている必要があります。
- パスポートの有効期限: 入国時に6ヶ月以上の残存期間があること。
- IC旅券の所持: 偽造防止機能が高いICチップ内蔵パスポートであること。
- 滞在期間: 90日以内であること。
- 帰路の証明: 出国用の航空券(または予約確認書)を所持していること。
- 滞在費用の証明: 滞在期間中に十分な資金があることを証明できるもの(クレジットカードの提示などで対応可能な場合が一般的です)。
【重要】黄熱病予防接種証明書(イエローカード)について
ビザ自体は不要でも、検疫上の理由で「黄熱病予防接種証明書(イエローカード)」の提示を求められるケースがあります。
パラグアイ政府は、特定の黄熱病リスク国(ブラジル、ボリビア、ペルー等)から入国、あるいはそれらの国へ出国する渡航者に対し、接種証明書の提示を義務付けています。
- ブラジル経由の場合: サンパウロ等で乗り継ぎを行う場合、規定が変更される可能性があるため、最新の検疫情報を必ず確認してください。
- 有効期間: 接種日を0日目として、10日後から有効となります。直前の接種では入国を拒否される恐れがあるため、余裕を持った接種計画が必要です。
90日を超える滞在や現地で報酬を得る場合
現地法人に長期間出向する場合や、パラグアイ国内の企業から報酬を得る形態の業務に就く場合は、短期滞在の枠組み(ビザ免除)は適用されません。その場合は、事前に「居住ビザ」や「投資家ビザ」等の申請が必要となります。
管理者へのアドバイス 2025年の最新ルールでは、ICパスポートであればスムーズな入国が可能ですが、隣国ブラジルやアルゼンチンを陸路で跨ぐ旅程(シウダー・デル・エステ経由など)を組む場合は、入国・出国スタンプの確認を徹底するよう出張者に指導してください。スタンプの漏れは、不法入国・不法滞在とみなされる最大のリスクです。
渡航前チェックリスト(企業・出張者向け)
【企業・管理者向け】安全管理とバックアップ
- 外務省「たびレジ」への登録: 現地治安情報・緊急事態連絡をリアルタイムで受け取るため必ず登録しましょう。
- 現地連絡網の整備: 現地法人、提携先、日本大使館の連絡先をリスト化し、オフラインでも閲覧できるように共有しましょう。
- 危機管理マニュアルの確認: 盗難や事故に遭った際の対応フロー(カードの利用停止手順など)を出張者に周知しましょう。
【出張者向け】必須書類・機材
- ICパスポート:有効期限6ヶ月以上のICチップ内蔵パスポートでビザ免除の条件です。
- 黄熱病予防接種証明書(イエローカード):ブラジル経由などの場合は必須。接種から10日以上経過しているか確認が必要です。
- 経由国の渡航認証(ESTA/eTA等): 米国経由ならESTA、カナダ経由ならeTAが必要です。
- 航空券(Eチケット)の控え: 入国審査で帰路の証明を求められることがあります。
- 変圧器・変換プラグ: パラグアイの電圧は220V、プラグはCタイプまたはBFタイプ(稀にB3)が主流です。日本の家電(100V)をそのまま使うと故障の原因になります。
- オフライン地図のダウンロード: Googleマップなどのアスンシオン周辺マップを保存しておくと、電波が不安定な場所でも安心です。
【出張者向け】健康・決済手段
- 常用薬と英文の薬剤証明書: 長時間の移動や環境変化による体調不良に備え、使い慣れた薬を持参してください。
- 複数のクレジットカード: VISA、Mastercardが一般的です。磁気不良や不正利用による利用停止に備え、最低2枚は別ブランドで用意しましょう。
- 米ドルの小額紙幣: 現地通貨グアラニー(PYG)への両替用、および緊急時用に、新券の米ドル(特に5ドル、10ドル札)を数枚持っておくと重宝します。
パラグアイ入国手続きの流れ(到着空港での動き方)
1. 入国審査(Migraciones)
飛行機を降りたら「Migraciones」の表示に従って進みます。
- 提示するもの: パスポート、航空券(Eチケット)の控え、黄熱病予防接種証明書(必要な場合)。
- 質問内容: 滞在目的(Business / Negocios)、滞在先ホテル、滞在期間などが聞かれます。
- 【重要】入国スタンプの確認: 審査官がパスポートにスタンプを押した際、「日付が正しいか」「入国を示すスタンプであるか」をその場で確認してください。スタンプの押し忘れがあると、出国時に不法滞在とみなされ、多額の罰金を課せられたり、次回以降の入国が拒否されたりするリスクがあります。
2. 荷物の受け取り(Baggage Claim)
入国審査後、ターンテーブルで預け荷物を回収します。荷物の取り違えや紛失が発生した場合は、速やかに航空会社のカウンター(Equipaje Perdido)へ申し出てください。
3. 税関検査(Aduana)
荷物を持って税関へ進みます。
- 申告なし(Green Channel): 申告するものがない場合。
- 申告あり(Red Channel): 規定を超える外貨や商用品を持っている場合。
持ち込み制限と禁止品(外貨・商用品など)
外貨持ち込み制限
- 申告の基準: 10,000米ドル相当(または他通貨での同等額)以上の現金、有価証券、貴金属を持ち込む、または持ち出す場合は、税関での申告が義務付けられています。
- 注意点: 申告を怠り、検査で発見された場合は没収や罰金の対象となります。複数の同行者で分けて持っている場合でも、合算で判断されることがあるため注意が必要です。
持ち込み禁止品・制限品
- 農作物・食品: 生肉、果物、野菜、種子などは厳しく制限されており、検疫証明書がない限り没収されます。
- 商用品(サンプル品など): 展示会用のサンプルや、現地で販売・配布する目的の製品を持ち込む場合、通常の「手荷物(個人使用)」枠ではなく、輸入手続きが必要になるケースがあります。高価な機材(プロ仕様のカメラや特殊測定器など)を複数持ち込む際は、ATAカルネの利用や、事前に現地提携先に確認することをお勧めします。
- 医薬品: 個人で使用する範囲の常備薬は問題ありませんが、多量(数ヶ月分以上)の場合や特殊な向精神薬などは、医師の英文処方箋を携帯してください。
持ち出し制限(出国時)
- 文化財: パラグアイの歴史的・文化的価値がある美術品や工芸品の持ち出しは禁止されています。お土産として高価なアンティーク品などを購入した場合は、購入店で輸出許可の要否を確認してください。
管理者へのアドバイス 現場での混乱を避けるため、出張者には「入国審査官の前でスタンプが押されたことを確認するまで窓口を離れない」ことを徹底させてください。また、1万ドル以上の現金を持たせることはリスク管理の観点からも避け、法人カード等の利用を推奨します。
空港から市内までの移動手段
シルビオ・ペッティロッシ国際空港からアスンシオン市内(主要ビジネスエリアのビジャ・モラ地区やセントロ地区)までは、車で約30分〜50分程度です。ただし、朝夕のラッシュ時は激しい渋滞が発生するため、移動時間には余裕を持ってください。
配車アプリ(Uber / MUV)
ビジネス渡航者に最も推奨される移動手段です。
- 特徴: 事前に料金が確定し、アプリ上で決済が完了するため、不当な料金請求の心配がありません。
- 利用方法: 空港の無料Wi-Fiを利用して手配可能です。ピックアップ場所は通常、到着ロビーを出てすぐの指定エリア(”Punto de encuentro”)となります。
- MUV: パラグアイ発祥の配車アプリです。Uberで車両が見つからない場合のバックアップとしてインストールしておくと安心です。
空港タクシー(Radio Taxi)
到着ロビーにある専用カウンターで申し込むタクシーです。
- 特徴: 24時間利用可能で、事前のアプリ設定が不要です。
- 料金: 市内まで一律料金(定額制)が設定されていることが多く、カウンターで支払うか、チケットを受け取ってから乗車します。
- 注意点: 流しのタクシーよりも割高ですが、信頼性は高いです。必ず「公認」のカウンターを通した車両を利用してください。
ホテルの送迎シャトル
中・高級ホテル(Sheraton, Bourbon, Dazzlerなど)に宿泊する場合、送迎サービスを提供していることがあります。
- メリット: ドライバーが到着ロビーで名前を書いたボードを持って待機しているため、初めての渡航でも迷うことがありません。
- 手配方法: 事前にホテルへフライト便名を伝えて予約する必要があります。
レンタカー
空港内に大手レンタカー会社のカウンターがあります。アスンシオン市内は運転マナーが荒く、道路標識も不十分な箇所が多いため、自身での運転はおすすめしません。現地に慣れていない場合は、ドライバー付きの車両を手配するのがビジネス上の安全策です。
上記の移動手段についてまとめると以下の通りです。
| 移動手段 | 料金目安 (PYG / USD) | メリット | デメリット |
| Uber / MUV | 約 50,000〜80,000 PYG($7〜$11) | 安価、ルート記録 | Wi-Fi必須、混雑時に捕まりにくい |
| 空港タクシー | 約 120,000〜160,000 PYG($16〜$22) | 予約不要・確実、深夜でも安心 | 料金が高め |
| ホテル送迎 | $25〜$40(ホテルによる) | 安心感とスムーズ | 事前予約が必要、高価 |
※アドバイス:空港から市内へ向かう際、一部のタクシー運転手が「高速道路料金」などを別途請求しようとすることがありますが、基本的には定額料金に含まれています。不安な場合は、乗車前に「Todo incluido?(トド・インクルイド?/全て込みですか?)」と確認するのがスマートです。
滞在中の注意点(ビジネス慣行・ルール)
ビジネス・コミュニケーションの基本
- 挨拶とスキンシップ: 初対面では力強い握手とアイコンタクトが基本です。面識ができると、男性同士は軽い抱擁(アブラソ)、女性同士や男女間では右頬を合わせる挨拶をすることがあります。
- 敬称の使用: 相手を呼ぶ際は「Señor(セニョール/男性)」「Señora(セニョーラ/女性)」に名字を付けるのがマナーです。博士号やエンジニアなどの学位を持つ相手には「Doctor(ドクトール)」「Ingeniero(インヘニエロ)」といった肩書きで呼ぶと非常に敬意が伝わります。
- スモールトークの重要性: いきなり本題に入るのは避けましょう。家族のこと、サッカーの話題、パラグアイの印象など、世間話を通じて「人となり」を理解し合う時間が、その後の商談をスムーズにします。
パラグアイ流の「時間」への理解
- 「Hora Paraguaya(パラグアイ時間)」: 現地では予定時刻より15〜30分程度遅れて始まることが珍しくありません。しかし、日本からの訪問者は「時間厳守」を貫いてください。 相手が遅れても寛容な態度を示しつつ、自らは時間を守ることで、日本人らしい誠実さをアピールできます。
- 意思決定のプロセス: 階層社会であるため、最終決定には時間がかかる傾向があります。焦らせるような態度は逆効果になることがあるため、根気強いフォローアップが必要です。
食事とホスピタリティ
- アサード(BBQ)の招待: 現地のビジネスパートナーからアサード(肉料理)に招待されたら、それは信頼の証です。できる限り出席し、一緒に食事を楽しむことが関係深化に直結します。
- マテ茶とテテレ: パラグアイの国民的飲料である「テテレ(冷たいマテ茶)」を勧められたら、一口でも頂くのが礼儀です。一つの回し飲み用カップ(グアンパ)で提供されることもありますが、これは仲間として受け入れられたことを意味します。
治安・安全管理のルール
- 「見せない」防犯: 路上でスマートフォンを操作したり、高級時計や目立つ宝飾品を身につけるのは避けましょう。
- 移動の徹底: 夜間の外出は、たとえ短距離でも徒歩は避け、Uberやホテルの配車サービスを利用してください。
- 偽警官への警戒: 警察官を装って身分証の提示を求め、財布を抜き取る手口が報告されています。不審な場合は、人通りの多い場所へ移動してから対応するか、身分証のコピーを提示するようにしてください。
管理者へのアドバイス
現地のスタッフやパートナーをマネジメントする場合、「指示待ち」の傾向があることを理解しておく必要があります。目標を細かく設定し、こまめな進捗確認を行う「並走型」のコミュニケーションが、パラグアイでの実務を安定させるコツです。
出国時の手続きとオーバーステイ対策
空港での出国手続き
シルビオ・ペッティロッシ国際空港(ASU)では、以下の流れで出国します。
- チェックイン: 国際線は出発の3時間前までにはカウンターに到着しておくことを強く推奨します。
- 出国審査(Migraciones): パスポートを提示します。ここで入国時のスタンプが正しく押されているか、滞在期限(通常90日)を超えていないかが厳格にチェックされます。
- 保安検査: 液体物の持ち込み制限など、国際基準の検査が行われます。
オーバーステイを防ぐための必須知識
パラグアイでは、以下のケースで「オーバーステイ(不法滞在)」とみなされるトラブルが多発しています。
- 入国スタンプの欠落: 特にブラジルやアルゼンチンからの陸路入国時に多く発生します。バスやタクシーで国境を越える際、運転手が手続きを待ってくれないことがありますが、必ず自身で車を降りてイミグレーション窓口へ行き、入国スタンプをもらわなければなりません。これがないと、出国時に「いつ入国したか証明できない」ため、不法滞在扱いとなります。
- 滞在期限の勘違い: ビザ免除の短期滞在は「90日」ですが、これは「3ヶ月」ではありません。きっちり日数でカウントされるため、ギリギリのスケジュールを組む場合は注意が必要です。
万が一、滞在期限を過ぎてしまったら
もし期限を過ぎてしまった場合、空港の出国審査窓口でその場で罰金を支払うことになります。
- 罰金額: 2025年現在、日本円で数千円〜1万円程度(現地通貨の最低賃金に基づき算出)ですが、現金(グアラニーまたは米ドル)での支払いを求められることが一般的です。
- リスク: 罰金を支払えばその場での出国は可能ですが、パスポートに記録が残り、次回以降の入国審査が非常に厳しくなる、あるいは一定期間の入国禁止措置が取られるリスクがあります。
4. 隣国への「日帰り出張」時の注意点
シウダー・デル・エステからブラジル(フォス・ド・イグアス)へ橋を渡って数時間の打ち合わせに行くような場合でも、「パラグアイの出国」と「再入国」の手続きを省略しないでください。 「ちょっと隣の国へ行くだけだから」という油断が、最終的な帰国時の大きなトラブルに直結します。
※アドバイス: 複数の国を周遊する出張ルートを組んでいる場合、各国の入国・出国スタンプがパスポート上で「線」としてつながっているかを確認するよう出張者に念押ししてください。スタンプの押し忘れが発覚した場合は、速やかに現地の日本大使館へ相談し、対応を仰ぐのが最善です。
参考リンク・公式情報
査証(ビザ)・入国条件に関する最新情報
- 在日パラグアイ共和国大使館:日本国内での公式窓口です。ICパスポートによるビザ免除の最新詳細や、長期滞在ビザの手続きについて確認できます。
- 在パラグアイ日本国大使館:現地での緊急時の連絡先、パラグアイ政府が発表する入国制限・検疫ルール(黄熱病予防接種の義務化範囲など)を日本語で確認できます。
安全・治安・渡航計画