イタリア出張の概要
イタリアは欧州第3位の経済規模を誇り、製造業、ファッション、エネルギー、食品など多岐にわたる産業で日本企業との接点が非常に多い国です。
しかし、ストライキ(ショーペロ)の頻発や、欧州特有の「シェンゲン協定」に基づく滞在日数のルールなど、渡航前に把握しておくべきリスクと実務的なポイントがいくつか存在します。
本セクションでは、円滑なビジネス渡航を実現するために、まず押さえておくべき主要都市と基本要件を整理します。
ビジネス渡航で想定される主な都市・空港
イタリア出張において、主要なゲートウェイとなる都市と空港は以下の通りです。ビジネスの目的に合わせて、最適な到着地を選択することが効率化の鍵となります。
| 都市 | 主な産業・役割 | 利用される主な空港 |
| ミラノ | 金融・ファッション・製造業の経済中心地 | ミラノ・マルペンサ空港 (MXP)※国際線主力。市内まで特急で約50分。 |
| ローマ | 政府機関・エネルギー・航空宇宙の首都機能 | フィウミチーノ空港 (FCO)※イタリア最大のハブ。別名:レオナルド・ダ・ヴィンチ空港。 |
| ボローニャ | 自動車産業・精密機械・見本市のモーターバレー | ボローニャ・ボルゴ・パニゴーレ空港 (BLQ) |
| フィレンツェ | 皮革製品・アパレル・医薬品産業の中心地 | アメリゴ・ヴェスプッチ空港 (FLR) |
※ミラノには「リナーテ空港 (LIN)」もありますが、こちらは主に欧州域内便が中心です。日本からの乗り継ぎ便を手配する際は、到着空港と市内へのアクセス時間を事前に確認しておくことが重要です。
出張者が事前に押さえるべきポイント(ビザ、パスポート、有効期限など)
イタリアへの入国は、日本のパスポート保持者であれば多くのケースで簡略化されていますが、「残存有効期間」には厳格なルールがあります。
ビザ(査証)の要否
- 90日以内の商用目的であれば、日本国籍者は原則としてビザ取得は不要です。
- ただし、報酬を伴う労働や90日を超える長期滞在の場合は、事前にイタリア大使館での就労ビザ申請が必要になります。
パスポートの有効期限(重要)
- 「出国予定日から3ヶ月以上」の有効期間が残っている必要があります。
- パスポートの「発行日から10年以内」であることも条件となります。
シェンゲン協定のルール
- イタリアはシェンゲン協定加盟国です。
- 「あらゆる180日の期間内で合計90日以内」という滞在制限があります。
- 直近で他の欧州諸国へ出張していた場合、滞在日数が合算されるため注意が必要です。
ETIAS(エティアス)の導入予定
- 2025年以降、欧州への入国には事前の渡航許可証「ETIAS」が必要になる見込みです。最新の導入時期を必ず確認してください。
日本人出張者のビザ要件
イタリアへのビジネス渡航において、多くの日本人が「ビザなし(免除)」で入国していますが、活動内容によっては法的なリスクが生じる可能性があります。管理者として正しく理解しておくべきルールを整理します。
短期滞在(ビザ免除)の範囲
日本国籍者が、イタリアを含むシェンゲン協定加盟国に「180日の期間内で合計90日以内」滞在する場合、以下の活動であればビザは不要です。
- 商談、会議、契約調印、市場調査
- 展示会やセミナーへの参加
- アフターサービス(機器の設置・修理等)の短期業務
就労ビザが必要になるケース
たとえ90日以内であっても、「イタリア国内の企業から報酬を得る場合」や「現地の生産活動に従事する場合」は、原則として就労ビザ(Visto per lavoro)が必要です。判断が難しい場合は、必ず事前にイタリア大使館や専門家へ確認してください。
ETIAS(エティアス)の導入について
2025年中に運用開始が予定されている「ETIAS」は、ビザ免除対象者に対して事前にオンライン申請を義務付けるものです。導入後は、これがないと飛行機への搭乗自体を拒否されるため、今後の最新情報に注意が必要です。
- 30日超・就業目的・駐在の場合に必要なビザの種類(Residence Visa 等)の概要
- ビザ情報を確認すべき公式窓口(駐日イタリア大使館、航空会社の案内ページなど)
ETIAS(エティアス)はいつから必要?2026年導入予定の最新情報解説
渡航前チェックリスト(企業・出張者向け)
【企業・管理者向け】リスク管理と手配
- 海外旅行保険の加入: イタリア医療費が高額のため十分補償の保険に加入し、英文付帯証明書を発行してください。
- 危機管理情報の共有: 外務省「たびレジ」登録と現地治安・ストライキ情報を事前確認してください。
- 支払手段の確保: 法人カード有効期限確認と現地ユーロ現金準備規定を共有してください。
【出張者向け】持ち物・書類準備
- パスポート: 有効期限が出国予定日から3ヶ月以上残っているか再確認してください。
- 往復航空券の控え(Eチケット):入国審査で提示求められるEチケットを必ず準備してください。
- 宿泊先の住所・連絡先:入国カード記入や滞在先の質問に即答できるよう準備してください。
- 英文の在職証明書・招待状:ビジネス目的証明のため会社発行書類を持参してください。
- 変圧器・変換プラグ:イタリアはCタイプ(またはLタイプ)です。日本のAタイプはそのまま使えません。
イタリア入国手続きの流れ(到着空港での動き方)
イタリアの空港(ミラノ・マルペンサやローマ・フィウミチーノ)に到着してからの流れは比較的シンプルですが、2025年以降は「ETIAS(エティアス)」の導入状況によって手順が一部変更になる可能性があります。
- 入国審査(Immigrazione)
- 「Non-EU Citizens(欧州連合外市民)」の列に並びます。
- 必要書類: パスポート、帰りの航空券(Eチケットの控え)、滞在先がわかる書類(ホテルのバウチャー等)。
- 質問内容: 滞在目的(Business / Work)、滞在期間、宿泊先などを問われます。短く的確に答えられるよう準備しておきましょう。
- 手荷物受取(Ritiro Bagagli)
- 掲示板で搭乗便名を確認し、指定のターンテーブルへ。
- 税関(Dogana)
- 申告品がない場合は「Nothing to Declare(緑のゲート)」に進みます。
- 1万ユーロ相当額以上の現金を持ち込む場合は申告義務があります。
【2025年以降の重要変更点】
欧州渡航情報認証制度(ETIAS)の運用が開始された後は、出発前にオンラインでの承認取得が必須となります。取得していない場合、入国審査以前に搭乗を拒否されるため、必ず最新の運用状況を確認してください。
空港から市内までの移動手段
ミラノ・マルペンサ空港 (MXP) から市内へ
- マルペンサ・エクスプレス(特急列車):最も推奨される手段です。ミラノ中央駅やカドルナ駅まで約50分。なお、乗車前にホームにある黄色(または緑色)の刻印機でチケットを有効化(打刻)してください。忘れると罰金の対象になるので注意が必要です。
- シャトルバス(プルマン): ミラノ中央駅まで約1時間。電車がストライキの際の代替手段としても有効です。
- タクシー: 市内中心部までは固定料金(2025年時点で約114ユーロ強)が設定されています。
ローマ・フィウミチーノ空港 (FCO) から市内へ
- レオナルド・エクスプレス(直通特急):ローマ・テルミニ駅までノンストップで約32分。30分間隔で運行しており、ビジネス渡航には最適です。
- タクシー:ローマ市内(アウレリウス城壁内)までは固定料金(約55ユーロ)です。
- 重要:必ず「公式タクシー乗り場」から、白色で車体に市章がある正規車両を利用してください。
滞在中の注意点(ビジネス慣行・ルール)
イタリアでのビジネスを円滑に進めるには、日本とは異なる「身だしなみ」と「コミュニケーション」の作法を理解しておく必要があります。
1. 第一印象を決める「服装と靴」
イタリアのビジネスパーソンは、相手の服装、特に「靴」をよく見ています。
- 服装:基本はダークスーツ。夏場でもジャケットと長袖シャツの着用が望ましいです。
- 靴の手入れ:汚れた靴や使い古した靴は、「仕事が雑」という印象を与えかねません。渡航前に磨き直しておくことを強く推奨します。
2. 会議とコミュニケーション
- 挨拶:握手はしっかりとした力強さで。視線を合わせることが信頼の証です。
- 時間への感覚:イタリア人は時間にルーズと思われがちですが、北部のビジネス(特にミラノ)では時間は厳守されます。ただし、会議が予定時間より長引くことは一般的です。
- アポイントメント:8月(バカンス)やクリスマスの時期は、国全体が休止状態になります。この時期の商談設定は避けるのが鉄則です。
3. 食事のマナーと会食
- ディナーの開始時間:レストランのオープンは19時半以降が一般的で、会食の開始も遅めです。
- 支払いのスマートさ:接待の場合、支払いはテーブルで静かに行うのがスマート。チップはサービス料が含まれていれば必須ではありませんが、良いサービスを受けた際は数ユーロ置くのが一般的です。
出国時の手続きとオーバーステイ対策
イタリア(シェンゲン圏)からの出国は、入国時と同様にシンプルですが、「滞在日数の管理」だけは厳格に行う必要があります。
1. 出国手続きの流れ
- 空港への到着:イタリアの空港はチェックインや手荷物検査に時間がかかることが多いため、出発の3時間前には到着しておくのが理想的です。
- 免税手続き(Tax Refund):ビジネス用のお土産などで免税対象(154.94ユーロ以上)の商品を購入した場合は、チェックイン前に税関(Customs)でスタンプをもらう必要があります。
注意:払い戻しを現金で受けるカウンターは非常に混雑するため、余裕を持った行動が必要です。
- 自動化ゲートの利用:12歳以上の日本国籍保持者は、ローマやミラノなどの主要空港で自動化ゲート(E-gates)を利用できます。有人窓口よりスムーズですが、パスポートにスタンプが必要な場合は係員に申し出てください。
2. オーバーステイを防ぐ「90/180日ルール」
ビザなしの短期商用渡航には「あらゆる180日の期間内で合計90日以内」という制限があります。
- 計算の仕組み:常に「出国するその日から過去180日間」を遡ってカウントします。
- リスク:「一度日本に帰ればリセットされる」というのは誤解です。短期出張を頻繁に繰り返すと、気づかないうちに上限の90日に達してしまうことがあります。
- 対策: 欧州委員会が提供している「Schengen Calculator」などのツールを使い、過去の渡航履歴を含めたシミュレーションを行うことをお勧めします。
【ポイント】 オーバーステイは、次回の入国拒否や数年間の入国禁止措置につながる重大なコンプライアンス違反です。頻繁に欧州へ渡航する社員については、全シェンゲン圏での滞在履歴を会社側でも把握しておくことが重要です。
参考リンク・公式情報
外務省 海外安全ホームページ(イタリア):治安・感染症・入国制限の最新情報を確認できます。
駐日イタリア大使館:ビザ要件や最新法的ルールの確認が可能です。
ENIT(イタリア政府観光局):国内基本情報や文化・習慣の紹介を確認できます。
欧州委員会 ETIAS公式サイト:2025年以降の渡航認証の最新情報を確認できます。